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【解脱RTA】発売前パーフェクト攻略ガイド【システム編】

こんにちは!

この記事はゲームマーケット2022春にて頒布される新作ボードゲーム『解脱RTAのゲームシステムに関する紹介記事だ。

 

『解脱RTA』というゲームがどんなものなのか、大まかなゲームの流れ、テーマは以下の記事にて詳しく解説している。まだ読んでいない方は是非。

gamemarket.jp

 

こちらではゲームの説明書を読むことが出来る。

先に読んでおくと、この記事の内容が理解しやすいのでお勧めだ。

gamemarket.jp

 

今回は前の記事より一歩進み、ゲームシステムや設計思想といった部分を深く掘り下げていく。総じてオタクっぽい話であり、ゲームシステムそのものに興味が無ければ、退屈なものになる可能性は高い。

『解脱RTA』がどんなゲームか知りたいだけなら上記の記事で十分にカバーできる。

しかしもしあなたが自分の事をボードゲームのシステムが気になって堪らない面倒くさいオタクだと自負しているならこの記事も楽しめるかもしれない。

 

 

 

さて前置きはこのくらいにしてさっさと本題に入ろう。

 

【①前提:解脱RTAは何を目指して作られたゲームか?】

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まず初めに、『解脱RTA』は「30分くらいで終わる小箱ゲーム、それでいて多人数マルチゲームの面白さを味わえるゲーム」を目指して作られている。

 

始めの「30分くらいで終わる小箱ゲーム」の部分は主に制作の問題だ。

金銭面や調整時間を考えるとコンポーネントが膨らみがちな重量級は作れない。

知名度もない身としては興味の抱いた方が手に取りやすい価格帯が良いだろうと考えて決めたことだった。

 

そして後者の「多人数マルチゲームの面白さを味わえるゲーム」というところ。

これは以前の記事で述べたように僕の趣味嗜好が反映された部分になる。

僕が愛してやまない「多人数マルチ」と呼ばれるタイプのゲームはどいつもこいつもべらぼうにプレイ時間が長い。2時間を超えるなんてのは当たり前だ。

それでいて基本的に多人数で遊ぶゲームだから人数が沢山いる。

ルール量もそれなりに多い。そして何と言っても人を選ぶ。

 

好き嫌いが別れそうなゲームに2時間以上付き合ってくれる人間を何人も集めろというのは非常に困難なミッションで、現代日本で遊ぶには難易度が高い。

 

だからこそ僕はルール量やプレイ時間は抑えつつもこの「マルチ」の面白さが味わえるゲームをあったらなぁと思っていた。

だから今回そんなゲームを自分で作ることにした。極めて単純な行動原理である。

 

 

そんなわけで「マルチの面白さを味わえる30分ゲーム」を目標として作られた今作。

そのゲームシステムを作り上げるために他のボードゲームをいろいろ参考にしている。その中でも特に参考にしたボードゲームを2つ紹介する。

 

 

【②『ブリッツクリーク!(Blitzkrieg!)』】

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解脱RTAを製作する上で一番参考になったのは、この「ブリッツクリーク!」だ。

これは二人専用のボードゲームであり、「20分で第二次世界大戦が味わえる」という触れこみの対戦ゲームだ。日本でも数寄ゲームズが和訳付き輸入盤を販売している。

 

『ブリッツクリーク!』でやることは非常に簡単だ。

プレイヤーは手番ごとに「ユニット」と呼ばれる数字の書かれたチップをいずれかのマスに配置する。その結果、マスの効果や決算が発生したりする。

細かい部分はあれど基本のルールはこれだけ。驚くほどシンプルだ。

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『ブリッツクリーク!』の最大の魅力はこれだけシンプルなルールでありながら驚くほど悩ましいゲームに仕上がっている点にある。

いや、むしろシンプルであるがゆえに作者がどの部分で悩んで欲しいと思っているかがダイレクトに伝わってくる。本当に素晴らしいゲームだ。

僕が『ブリッツクリーク!』をプレイしたのはちょうど「30分で遊べるマルチ」のシステムを考えている時で、このシンプルでありながら悩ましいルールは非常に魅力的に思えた。

そういった経緯があり『解脱RTA』のシステムにはこのゲームの影響が多々見られる。そこでこの2つのゲームの類似点をいくつか上げて『解脱RTA』のシステムを解説していくことにしよう。

 

『ブリッツクリーク!』において重要なのは数字の書かれたチップとそれを配置するマスだ。チップは毎ターンバッグから1枚ドローする形で若干の引き運が絡む。

そしてそれをマスに配置するのだが、そこには多くの場合はアイコンが書いてある。配置ボーナスとしてアイコンに対応したアクションを行えるという形だ。

ここで素晴らしいのはこのマスに書かれた配置ボーナスが非常に強力な点にある。

チップの数字は引きの要素が絡むので一見運が勝敗を左右するように見えるが、このマスの効果が強力なため、チップの数字の大きさよりどのマスに配置するかの方が重要になるからだ。このためドローという要素がありながら、しっかりとした戦略性を成り立たせている。

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(配置ボーナスはいずれも強力。全てアイコン化されているのも素晴らしい)

 

この部分は「解脱RTA」においても継承されている。

「解脱RTA」でも使用される活力チップには引き運が絡むので状況によっては有利不利が強く出る。だが「ブリッツクリーク!」と同様に勝負の肝になるのはどこにチップを配置するか、いつ決算を起こすのかという部分だ。

加えて「解脱RTA」は転生というシステムで陣営すら変更出来てしまう。

このように運の要素が無いわけではないが、それを和らげるシステムがいくつもある。

そのため運が勝敗に直結するということはあまり起きないようになっているのである。

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(戦場カードに書かれたイベントマス。どれもかなり強力なものが多い)

 

さあ、話しを一旦「ブリッツクリーク!」に戻そう。

このゲームが優れている点はいくつもあるがそのうちの一つは「決算」のシステムだ。

「ブリッツクリーク!」を始めとするエリアマジョリティと呼ばれるゲームに共通することとして、基本的に「決算」と言われるアクションは強力なものになっている。

これは数の比べ合いという勝負において「後置き」という行為がそもそも強力だからだ。しかしあまりに強力すぎるアクションの存在はプレイヤーの思考停止を招く。

「ブリッツクリーク!」ではこれを防ぐためか、決算を起こす行動に一定のリスクを与えている。具体的には決算を発生させると一旦点数が入るが、その代わりチップを配置できる場所が一気に増える。先程も述べた通り、このマスの効果はかなり強力なため、次のプレイヤーはある程度アドバンテージを得ることが出来る。

勿論決算というアクション自体は「ブリッツクリーク!」においても強力なものだが、このルールのおかげである程度リスクのある行動になっており悩ましさが増している。

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(一つの段が全て埋まると決算が発生。その後、下の段にも置けるようになる)

 

これを踏まえて「解脱RTA」のシステムを見てみよう。

「解脱RTA」でチップを配置するのは6枚の戦場カードと呼ばれるカードだ。

この戦場カードは常に1枚が裏返り「休戦中」という状態になっている。

「休戦中」の戦場カードにはチップを配置することが出来ないため、基本的にプレイヤーは5つの戦場からチップを配置する場所を選ぶことになる。

重要なのは決算が終了すると今処理した戦場は「休戦中」になり、今まで「休戦中」だった戦場が表にひっくり返り新しい戦場になる。

このため次のプレイヤーはここにチップを配置することが可能だ。

そして全ての戦場に共通しているのは一番初めのイベントマス(つまり一番最初に戦場にチップを配置したプレイヤーが貰えるボーナス)は非常に強力なものになっていることだ。このため「ブリッツクリーク!」と同じく決算を発生させること自体にリスクがある。加えて「解脱RTA」は特定のプレイヤーの邪魔をすることが可能なので、目立ちすぎることは不利益に繋がることもある。

このように「ブリッツクリーク!」の悩ましい要素はきちんと引き継がれている。

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(どの戦場カードも1マス目には共通して「善行」のアクションが行える。

 これはゲームを通して最も強力な効果になっている)

 

 

と、ここまで読んできた方は1つの疑問に思うかもしれない。

それは「参考にしているというけど、それってパクってるだけじゃないの?」という疑問だ。

だがこの問には明確にNOと言える。

「解脱RTA」が「ブリッツクリーク!」のシステムをベースにしているのは事実だが、きちんと独自の要素があるからだ。

 

一つ例を挙げよう。例えばドローのシステム。

「ブリッツクリーク!」では手番終了時に毎回1枚ドローするというシステムを取っていた。この手法はベタであるが、毎回バッグからドローするというのは少し煩わしさを感じる部分があった。

これを解消するため「解脱RTA」は毎手番ドローすることはない。

チップは少しずつ減っていき、0枚になるとまとめて引くという処理が入る。

加えてこの部分に「死亡」や「転生」というフレーバーが合わさることで、これだけの違いでも実際のプレイ感はかなり異なるものになっている。

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そして一番大きな違いは「ブリッツクリーク!」は2人専用ゲームであり、「解脱RTA」は3~4人用ゲームだという点だ。

そもそも2人専用ゲームは他のプレイ人数のゲームと大きく異なる。

例えば相手の妨害が直接自分の利益に繋がること。

相手の点数を減らすことは自分の点数を伸ばすことと同じ意味を持つ。

これは2人専用ゲームならではの性質だ。

であるから「ブリッツクリーク!」のシステムを3~4人用の「解脱RTA」にそのまま持ってくることは不可能であるし、もし行ったとしても完成度高いものにはならないだろう。そのことは十分把握している。

だからこそ「解脱RTA」が参考にしているのはあくまで「ブリッツクリーク!」のゲーム進行の部分に留めている。プレイヤー同士の駆け引き、つまりゲーム性の部分では同時の調整を加え差別化を図っている。これは後の話とも繋がる部分でもある。

 

 

さあ、ここまでの話を一旦まとめる。

「解脱RTA」のベースになっているのは「ブリッツクリーク!」という二人用ゲームだ。基本的なゲームの進行はこれに準じたものになっている。

しかし只の模倣ではなく、それを多人数ゲームに落とし込むために独自の調整が施されており、それが「ブリッツクリーク!」との大きな差別点になっている。

 

 

では次は「解脱RTA」制作において参考にしたもう1つのゲームを見ていこう。

これを知ればどの部分で差別化を図っているかも見えてくるはずだ。

 

【③『パックス・パミール』『インペリアル』~陣営のグラデーション~】

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「解脱RTA」制作において参考にしたもう一つのゲームとは『パックス・パミール』及び『インペリアル』といった一部の多人数マルチゲームである。

一番初めに述べた通り、「解脱RTA」は「30分でマルチの面白さを味わえるゲーム」を目指している。であるならこれらのゲームを参考にするのは真っ当な話だ。

 

 

だが数多く存在するマルチの中でなぜこの2つなのか。

それはこの2つのゲームにある共通点が強く関係している。

 

『パックス・パミール』は19世紀の混乱するアフガニスタンを舞台にした重量級ゲームだ。プレイヤーは部族という立場でイギリス・ロシア・アフガニスタンの3国のいずれかと同盟を結びながら覇権を争う。

 

対して『インペリアル』は第一次世界大戦を舞台にした重量級ゲームだ。

プレイヤーは投資家となって各国に支援を行いながら戦争の行く末を影から操り、自分の利益が最大になるように行動しなくてはならない。

 

この2つのゲームに共通しているのはプレイヤーがそれぞれの国を担当するのではなく、それと協力関係を結ぶ部族や投資家という立ち位置にあることだ。

つまりプレイヤーが直接特定の陣営を担当するわけではない。

これは仮想のプレイヤー(この場合だと国家)がゲームしているのを見て、どれが勝つかBETするような形だというのがわかりやすいだろう。

このような2段階構造はマルチの他にも株を扱うゲームによく見られたりする。

このシステムにはどのようなメリットがあるのだろうか?

 

それを説明するために一般的なマルチゲームを例に出そう。

よく知られる「ディプロマシー」などではプレイヤーと陣営が結びついている。

Aはイギリスを担当、Bはドイツを担当といったような形式だ。

これは直感的でわかりやすいものだが、その分プレイヤー同士の対立は過激だ。他のプレイヤーは明確に敵であり、一時的に手を組むことはあるだろうが、最終的にはつぶし合う運命にある。

自分の担当する陣営が劣勢すぎるとゲームの途中で勝ち目がないことがわかってしまうという事態を招く可能性もある。総じて陣営が明確なせいか他プレイヤーと協力するか、敵対するかをハッキリと決めなくてはならない場合が多い。

 

ではそれに対して「パックスパミール」「インペリアル」のシステムはどうか。

プレイヤーを陣営と紐づけず、それを支援する立場に置くというシステムはプレイヤーの立場を曖昧なものにする。

プレイヤーは複数の陣営を同時に支援することが出来るし、それによってプレイヤー同士の関係にグラデーションが出来上がる。

プレイヤー同士は完全に味方や敵といった状態になることは無く、ある時は協力しある時は敵対するという曖昧な関係の中で己の利益を追い求めなくてはならない。

このシステムの優れている点は他者に攻撃されるというストレスをある程度軽減しているところにある。自分の支援している陣営が攻撃されれば確かに劣勢に追い込まれるが、「ディプロマシー」ほど致命的というわけでもない。

プレイヤーの立場を曖昧にすることでプレイヤー同士のインタラクションを直接的なものから間接的なものに落とし込むことに成功している。

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(パックスパミールにおいてはダイアルと忠誠度、インペリアルは株券によって協力関係を示している)

 

ただこのシステムにも欠点はある。

例えばこれは直感的ではなくゲームが複雑になりやすい。プレイヤーの立場が曖昧になることで自由度が増している一方で、複雑さは増し長考を招きやすい。

その結果「よく分からないままゲームが終わってしまった」という人も良く見る。

 

プレイヤーに優しくない点は明確な欠点ではあるが、それを差し引いてもやはり魅力的なシステムだと僕は思う。

なので「解脱RTA」でもこのシステムを参考にし、うまく協力関係のグラデーションを作ろうと試みている。その肝となるのが「転生」という要素だ。

ゲーム中プレイヤーは所持するチップを置いていくが、先ほども述べた通り毎ターンドローすることは無い。0になったタイミングで補充が入るが、この時必ず陣営が変更される。これは任意ではなく強制だ。

陣営の変更という要素はプレイヤーが今の戦場カードの状況、他のプレイヤーの陣営へ目を向けることを促している。加えてプレイヤーがどういった順番で「転生」していくかは事前に決められている。プレイヤーが自由に「転生」先の陣営を選ぶことは出来ないのだ。

これにより「赤の陣営には次に「死亡」すればなれるが、緑の陣営になるのはまだまだ先だからこの戦場の決算は早めに発生させよう」といったような駆け引きが生まれる。

これもプレイヤー同士に協力、敵対を促す仕掛けのひとつだ。

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(ゲームで重要な要素である陣営カードと転生。

 それぞれのプレイヤーで転生する陣営の順番が異なるのも重要なポイントだ)

 

 

ただあくまで「解脱RTA」は30分で終了する中量級ゲームなので、「パックスパミール」や「インペリアル」ほど濃密なインタラクションがあるわけでない。

だが簡略化されつつも、その面白さの骨子はしっかり味わえるものになっていると思う。是非とも実際にプレイしてみて、その要素を感じ取って欲しい。

 

 

【まとめ】

「解脱RTA「30分で多人数マルチの面白さを味わえるゲーム」を目指している。

・制作する上で参考にしたゲームは「ブリッツクリーク!」「パックスパミール」「インペリアル」

・「ブリッツクリーク!」からは主にゲームの進行に関わる部分を。

・「パックスパミール」「インペリアル」からは陣営の2段階構造を。

・それらのゲームを参考にしながら独自のシステムに落とし込んでいる。

 

この他にもシステムで言及したい部分はあるが、長くなってしまったので今回はここまでにする。あとは実際に遊んでみて、自分の目で判断して欲しい。

『解脱RTA』はもしかしたらとんでもないクソゲーかもしれないが(少なくとも僕は面白いゲームだと思っているが!)それでも僕の全力を注ぎこんだゲームである。

プレイした後にこの記事を見返して、作者の試みが成功しているかを分析するのも面白いものだ。もし盛大に滑っていたらバチボコに批判するという楽しみ方もある。

それも全て購入者に許された特権だ。

どんな形であれ、このゲームを楽しんでもらえれば幸いである。

 

まあつまらない話はこのくらいにしてこの記事を締めることにしよう。

 

『解脱RTA』はゲームマーケット2022春にて頒布されるボードゲームだ。

予価は2000円。頒布はア26『サイシュピール』ブース内に執り行う。

出展日は4/23(土)のみ。日曜日の出展は無いので注意して欲しい。

 

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そしてここまで読んでくれてありがとう。

次回は【解脱RTA】発売前パーフェクト攻略ガイド【テーマ編】でお会いましょう。