1.前書き
2018年にCosmodrome Gamesから発売された重量級ボードゲーム『スマートフォン株式会社』は独特なアクションプロットを中心としたゲーム性、スタイリッシュなアートワークなどが評価され、多くの人に愛されるゲームとなりました。
そしてその3年後、2021年に同作者による後継作『モバイルマーケット』が発売されました。同作は『スマートフォン株式会社』で好評を博した要素を受け継ぎながらも、新しい要素を取り込み、前作とはまた違った魅力が溢れるタイトルに仕上がっています。
今回はこの2つのボードゲーム、『スマートフォン株式会社』と『モバイルマーケット』に焦点を当て、両作品にどのような魅力があり、どのような違いがあるのかを自分なりに考察していきます。
とても長いですが最後まで読んで頂けたら嬉しいです。
さて本題に入る前に「この記事を書く目的」をもう少しだけ明確に示させてください。先に述べた「両作品の違いに注目し、それぞれが持つ魅力を考察する」というのも勿論1つの目的ではあります。
しかしこの記事の最終的な目的は「両作品が抱える背景、および立ち位置を明確にする」ことです。何だか分かりにくいので軽く説明しましょう。
ボードゲームが誕生したのは遠い昔、そこから長い年月の中で数えきれないほどの作品が生まれてきました。またそれらの作品はそれぞれが独立して存在するのではなく、複雑な関係で結びついています。とある2つのゲームの要素を組み合わせて新しいゲームが生み出されたり、特定のメカニクスを持つゲームが評価されフォロワーが多数生み出されるということはよく見られます。そういったことが繰り返され、様々な流行り廃りを経て、ボードゲームは今日まで発展してきました。
つまりボードゲームにも一連の流れ、即ち「歴史」があり、どんな作品にもそれが生み出された「背景」があるはずです。これは今回取り上げる『スマートフォン株式会社』と『モバイルマーケット』も例外ではありません。
これら2つもボードゲームの歴史の中にあるゲームであり、後世の作品に何かしらの影響を与えていくでしょう。僕はこういった「歴史」を興味深いものだと感じますし、それが生み出した「背景」を明らかにすることはゲームを理解する上でもとても役に立つものだと感じます。
そのためこの記事では『スマートフォン株式会社』と『モバイルマーケット』を単純に比較するだけではなく、影響を与えたと思われるジャンルをいくつか取り上げ、それらと比較することでも考察を進めます。最終的に「両作品がボードゲームの歴史の中でどのような立ち位置にあるのか?」という問いを少しでも解明できれば本望です。
ただ1つ注意して欲しいのは自分は一介のボードゲーマーであり、記事に書かれている内容は僕の個人的見解が大部分を占めています。そのためそれ自体が間違っていたり、トンチンカンな考察であることがあり得ます。あくまで「一個人の考え」として読んでもらえると助かります。よろしくお願いします。
2.ボードゲームの変遷
前書きで述べたように、ボードゲームは長い年月の中で変化し続けてきました。しかしそういった歴史を正しく評するのは困難と言えます。何故ならボードゲームの変化の方向性は多岐に渡る上、他のジャンルと比べて資料も豊富ではないからです。(そもそも「歴史を語る」という行為が簡単ではない)
そういった事実を踏まえた上で「ボードゲームの歴史を語る」なら、ひとまず「インタラクション」という軸に話を絞って考えることにします。
「インタラクション」はボードゲームでは「プレイヤーが他プレイヤーに与える影響がどれほど大きいか」を示す言葉として使われています。(この記事では上記の定義で話を進める)例えば「他のプレイヤーの行動によって展開が左右される」といったゲームはインタラクションが強い、逆に「他人の行動が自分に影響を与えない」ゲームはインタラクションが弱いと評されます。つまりこれは「複雑さ」などの同じで、そのゲームの傾向を示す1つの指標だと言えます。
ではこの「インタラクション」に絞って見るとボードゲームはどのような変遷を遂げてきたのでしょうか?
2000年代前半頃までのボードゲームにはインタラクションが強いものが多くありました。むしろこの頃のゲームは「インタラクションが強い」「ルール量が少ない」「テキストなどの複雑な効果は出来るだけ避ける」といったものが主流だったと言えるはずです。
しかし時代が進むにつれてボードゲームは複雑化の道を辿っていきます。その流れの中で、他人の動向によって勝敗が左右される可能性があるインタラクションが強いゲームは支持を失い、代わりに主体的に戦略を組み立てるような「インタラクションが弱いゲーム」が人気になっていきました。
この変化を示すものとして当時人気のあったメカニクス(ジャンルのようなもの)が挙げられます。古い時代に多く見られたメカニクスは「競り」「交渉」「エリアマジョリティ」「陣取り」などで、これらはプレイヤー同士でバランスを取るという要素が強く、これを採用したゲームはインタラクションが強くなりがちです。しかし最近は「交渉」や「競り」の要素があるゲームはとても少なくなりました。「エリアマジョリティ」や「陣取り」は前2つに比べてまだ見かけますが、それを中核に置くというより味付け的な使われ方が多くなっていると感じます。
では対照的に人気を集めた「デッキ構築」「ドラフト」「ワーカープレイスメント」といったメカニクスはどうでしょう?「デッキ構築」は自分のデッキを強化していく拡大再生産要素の強いメカニクスですが、それ自体に他人との絡みは存在していません。
「ドラフト」の他人の欲しいカードをカットするという要素はインタラクションと言えますが、評価されたのは「同時処理によるダウンタイムの削減」と「運要素の緩和」という要素が大きいように思えます。
「ワーカープレイスメント」は他人の動向が強く作用しますが、そのインタラクションは直接的なものというより間接的に影響しあう程度に収まっています。また近年ではアクションスペースが占有ではなく、追加のリソースを払う事でアクションを行えるようなゲームも増えてきており、そういった面から考えてもインタラクションは弱くなってきていると言えるでしょう。
とはいえボードゲームにおいて「インタラクション」が無くなったわけではありません。しかし過去のゲームの多くが他人の行動が強く影響を与えるような「直接的なインタラクション」が採用されていたのに対して、近年のゲームは絡みはありながらも出来るだけそれが感じにくいようにする「間接的なインタラクション」が主流になってきています。
むしろこの「インタラクションのあり方の変化」こそが、ここ15年くらいの大きな流れと言えるはずです。
3.経済ゲームの魅力と問題
こうしてインタラクションの強いゲームは勢力を失っていったのですが、だからと言ってそういったゲームが「インタラクションの弱いゲーム」と比べて劣っているか?と問われればそう単純な話ではないでしょう。
確かに「インタラクションの強いゲーム」は単純にゲームとして評価するなら問題となる部分があります。ゲームバランスをシステムではなくプレイヤーが取る必要があったり、それによってゲームの上手さではなく人間関係によって勝敗が決してしまうのは良い体験ではないかもしれません。
しかしそれを差し引いても他プレイヤーの一挙手一投足に目を向け、シビアで痺れるような駆け引きは「インタラクションの強いゲーム」の大きな魅力であるのも事実です。またプレイヤー同士が関係しあうというゲーム性は1つの卓を皆で囲んで遊ぶボードゲームならではの楽しさと言えます。
実際に近年のソロプレイ感強めのゲームは物足りないと感じたり、先に述べた古いタイプのボードゲームを好んで遊んだりしている人は少なくありません。時代の流れで「インタラクションの強いゲーム」は主流派ではなくなりましたが、独自の魅力があり、それに惹かれている人も多くいるのです。
そして「インタラクションの強いゲーム」の極北ともいえる存在が「重量級経済ゲーム」というジャンルでしょう。これを細かく定義するのは難しいのですがひとまず「経済や経営がテーマ」「限られた需要をプレイヤー同士で奪い合う」「価格や商品などを取り扱うシステムがある」というような要素があり、かつインタラクションが極めて強いゲームであることが多いです。
一歩間違えれば脱落してしまうような、ガードレールの無い剥き出しのインタラクションは、非常にシビアで容赦がないものですが、それを乗りこなせた時の快感は一際大きいでしょう。こういった魅力のおかげか、「重量級経済ゲーム」は誕生は遥か昔であるのに形を変えながら現在も生き残っており、多くの愛好家が存在しています。
しかし熱狂的なファンがいるものの、全体的に見れば「重量級経済ゲーム」はニッチな存在です。やりごたえという点では現在のヘビーゲームにも引けを取らない「重量級経済ゲーム」が主流になりえないのは、それがいくつかの問題を抱えているからでしょう。
その問題とは「ルールが複雑」「プレイ時間が長い」という点です。特に古典的な「重量級経済ゲーム」はその傾向が顕著です。実際の市場経済を反映させようと処理が複雑になっている、プレイ時間が3時間を超えるというのも珍しくありません。
つまり「人を選ぶインタラクションの強いゲームを好んでいて」「難解なルールや長いプレイ時間を気にしない人を」「出来れば3人以上集める」というのは遊ぶハードルが高すぎるのです。もちろんそれを乗り越えて遊ぶ価値はあるのですが、イマイチ流行らないというのも頷ける話でしょう。
4.スマートフォン株式会社が受け継いだもの
そういった事情を踏まえた上で、いよいよ『スマートフォン株式会社』の話に入っていきます。今作が発売された2018年は当然インタラクションの弱いゲームが主流派の時代でした。しかし『スマートフォン株式会社』はそれに逆行するかのようにインタラクションの強いゲームになっているのです。
処理は簡略化されつつも根本にある「価格を決めて限られた需要を取り合う」というゲーム性は「重量級経済ゲーム」のものと酷似していますし、「エリアマジョリティ」「ネットワークビルド」といったメカニクスを中核においているのは古いタイプのゲームを思い起こさせます。
こういった点から『スマートフォン株式会社』は「流行りを存分に取り入れたゲーム」というよりは「主流派では無くなってしまった古いタイプのゲームや重量級経済ゲームに敢えて目を向け、その面白さを再発掘しようとした作品」と見ることが出来ると思います。
ただ特筆すべきは上記のゲームの要素をただ再現するのではなく、枠組みを借りつつもモダンなアップデートをしっかり行っている点です。
いくつか例を挙げるなら『スマートフォン株式会社』では「重量級経済ゲーム」の「価格を下げたくさん売る薄利多売戦略か、シェアはある程度切り捨て利益を追求する高級化路線」といった選択から生じる悩ましさと駆け引きの面白さは継承しています。
しかしルールの難解さや処理の複雑な部分はバッサリと切り落としているのです。経済ゲームでありながらお金といったリソースを採用しないという試み、同時処理のアクションプロット、これらの要素によってゲーム全体が非常にスマートでまとまりのあるものに仕上がっています。
そして『スマートフォン株式会社』で最も評価されるべき点だと考えるのは「パッドを用いたアクションプロット」です。これが非常にユニークで新しさに満ちていることが、古い経済ゲームの骨子を引き継ぐ本作をモダンな作品に引けを取らないものに昇華させていると感じます。では一体これはどのようなシステムなのか?次の項で詳しく見ていくことにしましょう。
5.パッドを用いたアクションプロット
「2枚のパッドを用いたアクションプロット」というシステムには大きく分けて3つの要素が関わっていると考えます。これを1つずつ見ていくことにしましょう。
①アクションポイント制
今作のアクション選択はアクションポイント制、つまり1ラウンドに規定のポイントが与えられ、それを消費してアクションを行う形式だと捉えると分かりやすいです。
プレイヤーには毎ラウンド12ポイント与えられ、それを割り振ることでこのターンのアクションを決めます。しかしこれは自由に行えるわけではなく、後述するパズル要素による制限を受けます。
②手番順の競り
今作において手番順は重要な価値を持ち、基本的には先手番ほど有利にそのラウンドを進めることが出来ます。これを決めるために今作では競りの要素を取り入れています。ただ一般的なお金を払っての競りではなく、代わりに参照するのは価格です。プレイヤーは価格を下げることで早い手順を得る、つまりこれは支払うのはお金ではなくそのラウンドの点数効率を犠牲にして手番順を競っていると捉えることが出来ます。
③2枚のパッドを用いたパズル要素
ここまで挙げた「①アクションポイント制」と「②手番順の競り」という要素はそこまで珍しいものではありません。しかし「パッドを用いたアクションプロット」が素晴らしいのはこれを同時に行いながら、直感的な操作に落とし込んでいる点です。2枚のパッドを組み合わせるという単純な操作でこれら2点をまとめ上げている点だけでなく、それ自体のパズル要素も悩ましく楽しいものに仕上がっています。また加えてテーマの面で見てもゲームと合致しているとなれば驚異的と言わざるを得ません。
と、このように「パッドを用いたアクションプロット」は単体で見ても十分完成されたシステムであり、これを中心として様々な調整が施された『スマートフォン株式会社』は「重量級経済ゲーム」の要素を引き継ぎつつもルールの難易度やプレイ時間を遊びやすいものにしています。
もちろん元となった「重量級経済ゲーム」と比べると、同時処理による弊害で濃密さが薄れ、少しパーティ寄りになった部分があるのは否定できません。しかしそれでも「重量級経済ゲーム」が抱えるプレイするハードルの高いという問題を解決しているのは評価されるべき点でしょう。
今作を「重量級経済ゲームの枠組みを借りながら、新しい要素を加え、現代的なゲームにアップデートさせようとした作品」と見なすなら、その試みは成功しています。それは『スマートフォン株式会社』が多くの人に指示されたという結果が示しています。
6.モバイルマーケットの背景
では次に後継作である『モバイルマーケット』が生み出された背景について、簡単に考えていくことにしましょう。とは言っても自分は作者ではないのであくまで推測になるのですが、主に2つの事柄が関係しているのではないかと考えています。
背景①:タブロー/エンジンビルドの流行
1つ目は時代が進むにつれて「タブロー/エンジンビルド」といったシステムの人気が高まっていったことです。タブローとは「場」を意味する言葉で、個人ボードなどを強化していくことでアクションや点数効率を高めていく要素があるゲームを意味しています。(今では個人ボードに限らず広い意味でつかわれることも多いです)
「タブロー/エンジンビルド」が流行っていった理由としては、やはり「インタラクションの弱まり」が挙げられるでしょう。沢山の要素から強化するものを選び、自分なりの戦略を組み立てていくという楽しさは時代の流れに上手くマッチしています。また昔は避けられていた複雑なテキストがあるゲームが許容されていったのも原因だと言えそうです。
いずれにせよ「タブロー/エンジンビルド」は現在多くの人に支持されており、特に「大量のカードを用いたタブロー/エンジンビルド」といったゲームはリプレイ性の高さやコンボを組む気持ちよさが評価され、今では一大ジャンルを築きつつあります。
こういった流れの中で『スマートフォン株式会社』の後継作を作るとなれば、それをカードゲームとして「タブロー/エンジンビルド」の要素を取り込むというのは自然な流れのように感じます。
加えて『スマートフォン株式会社』と『モバイルマーケット』のデザイナーであるIwan Lashinはその間に『ファーナス』というカードを用いたエンジンビルドのゲームを制作しています。
このことからもデザイナー自身も「カード主体のタブロー/エンジンビルド」の流行に目を向け、それを取り込もうとしているという背景が見て取れるかと思います。
背景②:パッドを用いたアクションプロットの拡張性
もう1つは『スマートフォン株式会社』のメインシステムであった「パッドを用いたアクションプロット」が他の要素と組み合わせる余地のある、拡張性の高いシステムであった部分も大きいでしょう。
前作では「重量級経済ゲーム」をアップデートするために「パッドを用いたアクションプロット」というシステムを用いましたが、それ自体は前作の「エリアマジョリティ」「ネットワークビルド」という要素と関連があるわけではありません。
何度も述べているようですが「パッドを用いたアクションプロット」はそれ自体で評価できるものであり、なおかつそれを他の要素と組み合わせても特に問題が無いように見えます。だとすればそれに他の要素を取り入れて新しいゲームを作ろうとするのは自然な流れです。
こういった背景から『モバイルマーケット』が誕生したと自分は推測します。つまり前作が「重量級経済ゲームの枠組みを借りながら、新しい要素を加え、現代的なゲームにアップデートさせようとした作品」とするなら、今作『モバイルマーケット』は「スマートフォン株式会社の枠組みを借りながら、タブロービルドの要素を加え、別の面白さを模索した作品」と捉えることが出来るはずです。
7.モバイルマーケットの変化
では実際に『スマートフォン株式会社』から『モバイルマーケット』にはどのような変化がもたらされたのでしょうか?今回の記事の目的は全体の大まかな流れを把握することなので、細かな変化について取り上げません。
しかし『モバイルマーケット』で起きた変化を一言で表すなら「インタラクションが弱まり、代わりに明確な方向性を求められるようになった」だと思います。
『モバイルマーケット』が『スマートフォン株式会社』に比べてインタラクションが弱まったと考える根拠は「薄利多売戦略」にあります。「薄利多売戦略」の基本は「利益は少ないが、早い手番で需要を枯らし、相対的に優位に立つ」というものです。
相手の需要を潰すことを狙うこの戦略は、その存在自体がインタラクションの塊と言えるようなものです。
しかし『モバイルマーケット』によって追加されたいくつかの要素によって「薄利多売戦略」が弱体化していると感じます。例えば追加された「原価」という要素は、価格から性能に応じた製造費を引いた分が利益になるというもので、これにより極端な安値を付けることは『スマートフォン株式会社』より難しくなっています。
加えて高級化路線のメインターゲットになる顧客たちは製造費が高いスマホを要求しがちなため、なおさら「薄利多売戦略」でその需要を奪うことが困難です。
また「お得意様」という自分だけの顧客を持てるという要素により、市場のカードが枯れてもある程度対応できてしまう点も要因であると感じます。(一応薄利多売戦略は相性の良いカードが多く用意されているため、そこで戦略毎のバランスを取っているのだろうと思われる)
このような「狙って需要を枯らすことの難しさ」「市場が枯れた時の逃げ道がある」ということから、ゲーム全体のインタラクションは前作と比べて弱くなっていると言えるかと思います。
代わりに『モバイルマーケット』では複数のカードを組み合わせて、自分なりに戦略を組み立てる部分が重要になっています。これは今作が取り込んだ「タブロー/エンジンビルド」が持つ要素にゲームの焦点を当てたのだと推測できます。
新しく導入されたカードの効果はどれも強力で、プレイヤーにどの戦略を取るべきかを示してくれます。カードは毎ラウンド補充されるので、それを見ながら最適な戦略を組み立てる必要があるでしょう。
逆に特に何も考えず成り行きでカードを取っていくと、いつの間にか大きな差がついてしまいます。どのカードを取るべきかという戦略性は前作に無い、今作での明確な変化と言えそうです。
こうして見ると前作はゲームの焦点をインタラクションに向け、ある程度プレイヤー同士でバランスを取る形だったのに対して、今作はプレイヤーそれぞれが主体的に戦略を練っていく必要があり、より現代風なゲーマー向けの調整が行われているのが分かります。
8.後継作としてのモバイルマーケット
ではこのような変化がもたらされた『モバイルマーケット』にはどのような魅力があるのでしょうか?今回は「スマートフォン株式会社の後継作として」という目線で『モバイルマーケット』という作品を見ていくことにします。
まず『スマートフォン株式会社』の後継作として『モバイルマーケット』を評するなら、今作はかなり変わった立ち位置であると思っています。というのも前作の要素をより複雑に盛り込んでゲーマー向けに仕立て上げるのが「正統進化」なら、今作はその流れに沿っていません。前作で大きな役割を果たしていた「ネットワークビルド」と「エリアマジョリティ」の要素をバッサリ削ぎ落し、代わりに「タブロービルド」という前作に無い要素を繋ぎ合わせています。
前作の強いインタラクションに魅力を感じていた人はこれらの変更点に抵抗があるかもしれません。また余計な要素を削ぎ落し、まとまりのある前作に比べると、『モバイルマーケット』はどこか要素を足し合わせたような強引さは感じます。
ですがこの大胆な変更点が『スマートフォン株式会社』に新しい風を吹き込んでいる点も事実です。そしてその過程で前作が抱えていたリプレイ性などの問題点を上手く解決しているのも見事です。こうしたアプローチの仕方は「正統進化」の路線ではありえないでしょう。
過去作の焼きまわしではなく、その骨組みを利用しつつも新しいものを作りだそうとするチャレンジングな姿勢は『スマートフォン株式会社』にも共通しており、それだけでも評価するべき点だと感じます。
そして何より、前作と方向性は変われど『モバイルマーケット』という作品はきちんとした面白さがあるのです。「重量級経済ゲーム」から『スマートフォン株式会社』に引き継がれた要素へ更に現代的な味付けを加え、「タブロービルド」特有のカードの捲れに応じて戦略を組み立てていく要素もしっかりあります。
またインタラクションの強い「スマートフォン株式会社」とソロプレイ感の強い「タブロービルド」の融合は上手く互いの欠点を補っています。
「タブロービルド」の要素は「スマートフォン株式会社」にインタラクションに寄り過ぎない主体的な戦略性を与え、「スマートフォン株式会社」の要素は「カード主体のタブロービルド」では他に見ないほどのインタラクションを吹き込んでいます。
この一見歪にも見える組み合わせが、『モバイルマーケット』独自の魅力を生み出しています。『スマートフォン株式会社』の後継作としても、「カード主体のタブロービルド系ゲーム」としても一度は遊んでみる価値のあるタイトルに仕上がっていると感じます
9.総評:どんなプレイヤーにオススメか?
最後にこの記事で登場した「重量級経済ゲーム」「スマートフォン株式会社」「モバイルマーケット」「近年のタブロー/エンジンビルド系」という4つのゲームの立ち位置を簡単にまとめます。またそれぞれのゲームがどんな方にオススメなのかを記して記事の締めとしましょう。
もしあなたが「インタラクションの極めて強いゲーム」を好んでいて、なおかつ周りに同じような愛好家が多く存在する環境に身を置いているなら「重量級経済ゲーム」をオススメします。プレイするハードルは高いですが、他のゲームでは味わえないようなシビアで強烈な駆け引きを楽しめます。
もしあなたがそういったゲームが好きだけど、それを遊ぶ環境が無い。もしくは重量級ゲームに興味があるがどjれに手を出せばよいか分からないというなら「スマートフォン株式会社」をオススメします。経済ゲームの面白さを継承しながら、比較的にルールも簡単、プレイ時間も短めと遊びやすい作品です。
もしあなたが「インタラクション」に興味が無い、むしろそれを嫌っているのなら「近年のタブロー/エンジンビルド系」をオススメします。名作と呼ばれるものが多くありますし、これからも面白いゲームが出続けるでしょう。
もしあなたが「タブロー/エンジンビルド」は好みだけどもう少しインタラクションが欲しい、もしくはスマートフォン株式会社が好みだけどリプレイ性などに難を感じているのなら「モバイルマーケット」をオススメします。少々荒々しい部分はありますが、それ故独自の魅力が溢れる作品です。
自分の好みが分からないという人はどれか1つを遊び、「インタラクション」という視点で分析してみると良いでしょう。より強い方が好きなら図の上へ、弱い方が好みなら図の下へ進んでいくと好みのゲームに出会えるかもしれません。
この記事が素晴らしいゲームと出会うきっかけになれば、僕としては嬉しく思います。
それではここまで長々とお読みいただき、ありがとうございました。